SS―スコープの先に

4/5
前へ
/19ページ
次へ
チェックアウトを済ませ、自分の部屋に帰り仕事道具の整備を軽く済ませる。 相棒のスナイパーライフルにハンドガン一丁。 それをカバンに詰め、噴水が見えるであろうビルをGPSで探した。 そういや駅前は人が大勢居る、その中で彼女を殺すとなると野次馬……。 俺の身体は勝手に携帯電話のキーを押し、警察署へ電話していた。 『はい、こちら○○警察署本部』 「――今日の午後6時、一人の女性が殺されます。彼女の処理をお願いします」 GPSを繋ぎ直し、一つの雑居ビルを見つけた。噴水から北に一直線上に一つの8階建ての雑居ビル。 今の時間は5時10分、今から向かっても5時30分には着くだろう。 そう考え、家を出た。 案の定、雑居ビルの屋上に着いたのが5時35分。 カチャカチャとライフルを組み立てる。 スコープの倍率も調整する。 しかしさっきの電話で警察は動いてくれるのだろうか……。 そんな心配が頭をよぎる。 スコープを覗き噴水を見てみると、彼女はもうそこにいた。 噴水の渕に座り、しきりに携帯を確認する彼女。 クソッ、手が震える。 まともに銃を握れない。 スコープで回りを確認して気を紛らわそうとして回りを見たら、警官が5、6人。 パトカーが3台。 良かった、ちゃんと動いてくれたんだ。 その時、携帯のアラームが鳴った。 6時の合図。 携帯を取り出しアラームを止める。 そのままメール画面を開き、彼女にメールを送る。 感謝の文と謝罪の文を書きこんで送信ボタンを押した。 もうこれが最後、俺が出来る、彼氏である俺が出来る最後の行為。 すまない梨華……。 スコープを覗くと、メールを確認しているであろう彼女が見えた。 頭にレティクルの中心を合わせる。 スコープの先が、彼女が涙で見えない…………。 だけど俺がやらないと―――― 涙を拭き、もう一応スコープを覗く。 するとふいに彼女がこちらを向いた。 見えるはずがないのに……。 そしてにこりと微笑んでくれた。 その瞬間俺は引き金を引いた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加