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「わ……分かれば良いんだ。ジュース買ってきてやるから寝てろ」
まだ幼かった俺は、その少女に礼も言わず、病室を出ていった。
なんだ………あいつ。
俺は自動販売機の前でボーッと突っ立っていた。
真子がすんなり黙るなんて。
あの泣き出したら止まらない真子が。
なんだか少し悔しかった。
あいつよりの俺の方が真子のことを理解しているはずなのに、あいつの方がずっと真子の扱いに手慣れている。
さっきだって、素直にお礼が言えなかった。
あいつに腹が立ったし、そんなあいつに手なずけられる真子にも腹が立った。
それでも………やっぱお礼は言うべき………かな。
あのままだと確実に、周りに迷惑をかけていたし。
俺はハァーとため息をついて、ボタンを押した。
病室に戻ると、真子はその少女と楽しそうにお喋りをしていた。
「…………あ、お兄ちゃんっ!」
真子は俺に気が付くと、顔をパッと輝かせた。
「はい。お前の好きなリンゴジュース」
真子は嬉しそうにジュースに飛び付き、さっそく飲み始めた。
「あと………はい。お前にも」
「…………あたしにも?」
差し出されたオレンジジュースを見て、少女は目を丸くさせた。
「うん。さっきは………真子をあやしてくれてありがとう」
何か照れ臭くなって、俺は無理矢理ジュースを押し付けた。
すると少女は、にっこり笑った。
「やっぱりお兄ちゃんは、優しいね!」
何故か俺は、その少女に見いってしまった。
幸せそうなその笑顔は、妙に俺の心臓を締め付けた気がした。
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