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「オお、コれがそノ書庫デすか?ナニか懐かシい匂いガしまスね」
目の前に現れた何かが出そうな雰囲気すらある古めかしい塔にウタが声を上げる
「凄い……この世界の建物なのに盟術の技術が組み込まれています」
壁に触れて感嘆に満ちた声を出すアステナ
そんな二人の様子に目もくれずに駆真は目の前の塔を、実際にはその塔から発せられる空獣を目の前にした時よりも、それ以前に空獣の〈女王〉である冬香と対峙した時よりも強い殺気染みたものを塔の中から感じていた
まあ、そんなことを微塵も表情に出さず、駆真は木製の大きな扉を開いた
塔の内部はジメッとしていた
そして、古い本特有の匂いが鼻に付く
灯りはポツポツとある蝋燭灯だけ
それが輪郭を現すのは塔の壁中にある本棚
周りの壁際に本棚が並び、中央に本を読む用の机がいくつかある
それが数階に渡りあるようだ
「向かうのは最上階だ」
早速、本に飛びつきそうになっていたアステナとウタを制する
〈図書館塔〉は上の階に行けば行くほど機密度が高まる
最上階となればそれこそ国を転覆させるほどの物だ
それほどの物で無くては空獣の〈女王〉の誘惑物質を抑える方法など分からないだろう
もちろん、こちらの世界で確立されていない盟術に使う幻素などについての書籍も、だ
そうして、3人が上を目指そうとした瞬間
薄暗い部屋の奥に唐突にぼんやりとした灯りが現れた
「ひいっ!」
それを見たアステナは悲鳴を上げた
駆真その様子を鬱陶しそうに横目で一瞥したあと灯りの方を睨む
しばらくすると灯りを持った女性の姿がはっきりとする。
ウェーブを掛けられた長いブロンドの髪、冷たく静かな光を宿す瞳、その姿は精巧に作られた人形のようにすら見える
そんな女性の姿にウタは首を傾げていた
「鷹崎駆真さまですね。音音元帥からお話は伺っております。上に行くと構造が複雑になりますゆえ、ご案内いたします」
告げるだけ告げて、女性は歩き出してしまう
ウタと駆真2人して首を傾げながら、腰が抜けてしまったアステナを無理やり引っ張りながら女性の後を付いて行った
ただただ、ひたすらに階段を上り続ける
騎士団で鍛えていた駆真はもちろん、魔人であるウタもまったく疲れた様子は無い
しかし、インドア派であるアステナは2階の時点で息が揚がっていた
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