悪夢の告知

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アパート外―― 「全くあの女、ヒステリーにもほどがあるますよ。」 「飯田。お前にはわからないだろうが、ああならない人間は逆にいないと思うな」 有子の住むアパートの外では飯田と小山田がいた。 2人は有子の絶叫を耳で聴いていた。 「なんでわかるんですか?」 「俺や、俺の親父。祖父や曾祖父も今まで神の国、我が国日本国のため、天皇陛下のためと言いながら戦ってきた。だがそんなもの建て前だけだ。実際に戦地に向かえば分かるよ。そんな綺麗事なんて言っていられないな。前を見れば死体や血だらけの同志や鬼のような顔で自分たちを殺そうとしている敵。後ろへ引けば怒鳴り狂う上官。『一歩でも退こうとした輩(やから)はたたっ斬るぞ!。』と怒号を響かせて軍刀を振り回していたよ。どこを向いても死ぬしかなかったんだ。キャンプに戻れば気が狂う兵まで出始めてた。ただ呆然として、立ったまま糞尿をたらす奴や、軍刀を抜いて仲間を手当たり次第斬りつけてた奴もいた。それから汚水を水だと自分に言い聞かせて飲んだ奴だっていた。あと…」 「うぇっ……もうやめていただけますか……?」 「少し余分な話をしすぎたな…だがいま話した通り戦場では綺麗事なんて通じない。皆、御国のことより自分の命が大事なんだ。あの女もそうだ。殺し合いに放り込まれるんだ。ああなったって別に驚くべきことじゃないよ」 「………そんな」 「俺の話が信じられないみたいだな…」 「…この国のあるべき姿って何ですかね…」 「さっぱりわからんよ…」 「………まぁでも、自分はこの国のためだと思い行動するのが大日本帝国国民の使命だと信じるつもりですが…」
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