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南欧風の石畳が敷かれた地下街の通路を、僕は真っ直ぐに天神駅の改札口の方向に向かって歩く。 劇場をイメージして造られた天神地下街の照明は暗めに設定してあり、赤煉瓦風の壁や、石畳の敷き詰められた床は、全体としてシックな雰囲気を醸し出している。 九州随一の都市である福岡の中心地に造られた天神地下街は、福岡市営地下鉄の天神駅も直結しており、そのせいもあって、いつも人で溢れている。 僕はそんな天神地下街が好きで、レイミとデートをするときには、必ず天神駅の改札口を待ち合わせにして、二人で地下街をブラブラと歩く。 もちろん、地下街だけでデートをするわけではないのだが、僕は彼女と二人で地下街を歩いている時が一番好きだった。 何かを買うというわけでもなく、手をつないでゆっくりと歩きながら、店頭にディスプレイされた商品を眺め、気になるものがあれば足を止める。 特別なことなど何もないのだが、どこか遠い異国の小さな街を、愛する人とともに歩いている、そんな気分に浸ることができるのだ。
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