甘露

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手洗いの前に立ち尽くしたまま、目の前の鏡を睨み付ける。 うわっ、嫌な顔だな。 不細工極まりない。 キリキリする胸の中の蟠りは、多分嫉妬。 だけど何で今さら? もう十年以上を共に過ごしてきたメンバーにって。 「可笑しいだろ」 肩を落としたまま、水を出し顔を洗った。 それにしても。 髪型ひとつでこんなに気持ちが上がり下がりしてるなんて、この先大丈夫なんだろうか。 この先、というのはつまり、同居とか同居とか同居…同棲とか。 ぶわっと顔に汗が吹き出し、熱を持つのを感じた。 『どうせなら、一緒に住むってどお?』 ああああのひとがあんな事を言い出すから。 『往き来すんのめんどい…』 確かに言った。 言ったんだ。 ………強かに酔っぱらっていたけど。 互いの家を往き来し始めて二ヶ月(とちょっと)。 恐ろしい近さに気を良くして、暇な時は入り浸る…と思いきや。 スケジュールが重なる事が少なくなったのが禍して、すれ違いが続いていたのだ。 「…ちょっと限界かも」 いや、(主に)アッチの方が。 .
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