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朝――これまでのオレには起床にあたって、幾つかのパターンがあった。
まず、一つ。チュンチュン、という小鳥のさえずりにより目覚めること。小鳥が一日の始まりを教えてくれるのだ。
ただ、そんなことは滅多にない。生まれた時から習慣化されているのは母親の騒々しい一喝による目覚めだ。
無視するが最期、一度睡眠の欲に負けただけで永眠が待っている。惨憺たる母親である。
そして最後に三つ目、主に休日での話になるが誰にも邪魔されず自分の好きな時に起きること。
これがまた格別に気持ちが良い。そんな中、今のオレにはもう一つのもうワンランク上の起き方が生まれた。
「こ~うった君、お~き~てっ!」
雲の上にいるようなふわふわした夢うつつな状態で目を開くと、そこには天使であり女神であり、我が愛しの彼女――ひとみが笑みを浮かべて立っていた。
「おはよう」
自然と口から挨拶が出るのは目覚めが良い証拠だ。これまで恐る恐る起きていた日常からすると、それはもう雲泥の差、月とスッポン。
彼女はオレの家に居候している。詳しい話は割愛させてもらうが、ひとみの親が海外転勤になり、彼女も海外に行かなければならない話に進んでいたところ、どうにか家族揃っての海外移住はなくなって、ひとみはうちで暮らすことになった。
巷で恐れられているオレの母親も、この時だけは大きな存在で力になってくれた。本当に母さんには足を向けて寝られない。二つの意味で。
ひとみ特有の気の抜けるような甘い声で挨拶を返してくる。そのひとみはいつもと少し違った。
「それ、カチューシャだよな」
ひとみは淡いピンク色のカチューシャをして、その場に立っていた。
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