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彼女は番組に夢中になっているが、できることならバラエティ番組を見たい気分である。
ただ、ここで勝手に番組を変えるものなら、それは宣戦布告と同等の意味になりピーピーギャーギャー、と騒ぎ出すのは目に見えているので大人しくするしかなかった。
そういうことがあり、ひとみは早速SPに憧れを持ってしまい、SPなんかになりきっているのだ。
ただ誰かに命狙われているでもなく、国家の秘密を隠し持っているでもなく、オレを襲う者はただ一人としていない。
可能性を考えるならオレとひとみの関係を好ましく思わない輩がいないとも言えない。そう考えるとオレってそこまで安心できる環境にいないんじゃないか。
「わたくしが光太君を護衛します。どうぞ気にしないで下さい」
ひとみは笑顔で敬礼なんてしている。朝から可愛すぎるぞ、この。
「そうか。最近オレも誰かに狙われているみたいだから頑張ってくれ」
もちろん嘘だ。
「光太君は私が守るね。だからトイレもお風呂も常に一緒にいなきゃいけないね~」
ふふふ、と彼女は不敵な笑みを浮かべる。トイレも風呂も背後に彼女が悪い顔をして突っ立っているのを想像してみたが、恐怖でしかない。
朝起こされた時からひとみはもう制服に着替え終わっていた。オレも制服に着替えに自室に戻るところ、当然のように部屋に入ってくるひとみを制止する。
露骨に悲しそうにする彼女を見て、オレは優しく諭すように言った。
「やっぱりオレは守られるよりお前を守れる男になりたいんだ。だから護衛ももういいよ」
口先だけではない。昨日から考えていたことだが、身を呈して、この身を捧げて守るとかそんな大きなことじゃなくても、少し悩みがあったら聞いてやるとか、そんな小さなことでいいから彼女の力になりたい。そう心の底から思った。
光太君、と彼女は呟きながらオレの両手を自分の手で包み込み、胸の前まで持ってきた。なんだか感慨に浸っているみたいだ。
「だったら私を守るために常に近くにいないといけないね!」
簡単には離れてくれないみたいだ。
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