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「朝っぱらからオレの着替えを見ても何も良いことないだろ。この時間で英単語の一つや二つ覚えた方がずっと為になるぞ」
ひとみは『なにを言ってるの?』と言いたげな平淡な顔をしている。オレは何一つおかしなことは言っていない。
「光太君に勉強とか言われたくない~。だから私にはお構いなく」
「構うわ!!」
強めに言って、彼女の両肩を押して無理やり部屋から追い出してやった。いつもより荒々しくドアを閉めたせいか大きな音が響いた。
「なんで~」やら「開けて~」やら「光太く~ん」やら「トイレ行きた~い」など言ってたが、間違いなく最後の一言は全く以て関係ない。
あまりうるさいと母さんに怒鳴られるんじゃないかと内心ドキドキしながら、彼女の言葉を華麗に無視して、オレは着替えを始める。
扉の向こうから扉をどんどんと叩いているのか、扉が悲鳴をあげている。頼むから壊さないでくれよ。
「こんなドアが憎いと思ったことはないよ~」
「オレはこのドアに労いの言葉をかけたいよ。それと着替えは終わったから」
一瞬だけドアの叩かれる音が聞こえなくなったが、またすぐに音が鳴り出し、
「嫌だ~! 今すぐ脱いで~!」
学校一のアイドルが朝からこんな爆弾発言しているなんて知っているのは、唯一このオレしかいない。生徒の大多数の人にとって彼女は高嶺の花なのだ。
とりあえず、学校に持っていくバックを手に取り、未だに叩かれているドアを開く。
「あ、光太君! ……ほげっ!」
ひとみの姿を確認するや否や、彼女のおでこにデコピンを食らわしてやった。
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