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「痛いよ~。女の子に暴力はだめって教わったでしょ~」
ひとみはおでこを擦っている。たかがデコピンで暴力判定されたらスキンシップが取れたもんじゃない。
それに女の子であるならば脱いでとせがむのはやめて欲しい。とは言うものの、それをそのまま伝えるのは控えておく。
別にこれからもそういう発言をして欲しいという願望があるわけではない。ひとみが無理して自粛し言葉をわざわざ選ばせるのも嫌だし、なにより慎ましくお淑やかな奴になってしまったら、それはもうひとみではなくなる。
なんだかんだオレは型破りなあいつを気に入ってるんだと思った。
「悪かったよ。お詫びと言ってはなんだけど、オレをマッサージしていい権利をやろう」
「ええ、それってお詫びになってないじゃん! ……でも待って、それはそれでいいかも……ぐふふ」
ひとみは普段見せない笑い方をした。最後の方に心の声が漏れていた気もするが、そこは触れないでおこう。
まだ何か考えを巡らせているのか、妄想の世界に入ってる彼女を尻目に朝飯にありつこうとリビングへと向かった。
あっちょっと待ってよ~、と後ろからひとみの声がしてすぐに追ってきた。
「光太君、もしここで私が転んだらどうする?」
大切ない朝食を求め、リビングに向かう階段の途中、ひとみが後ろから喋りかけてきた。その質問の意図など考えず間髪入れずに答えた。
「全力で避ける」
「むぅ! ばかばか! 光太君のバカァっ!!」
後ろからひとみにパカパカ叩かれる。デコピンよりよっぽど暴力的に思えたが、時には黙ることも大事なのだ。
「ひとみ……怒ると健康によくないぞ」
「誰のせいで怒ってると思ってんの!!」
またしても叩かれる。そう黙ることは大事だ。
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