ジングルベル

12/29
4106人が本棚に入れています
本棚に追加
/173ページ
「確か……アメリカンドッグ」 「エンジェルドッグです! それは勝手に多数決で決まっただけなので、名称なんてどうでもいいんです」 同じようなことを今はなき非公式のやつらが言っていたのを思い出す。そこまで蔑ろにするのなら、名前なんぞなくていいのでは。 多数決とならば、ぜひとも他の名前の候補も知りたいものだ。 「話が進まないので本題に入っていいでしょうか?」 コホンと一度、咳払いしてから切り出す彼女に『こっちの台詞だ』とぶつけてやりたい気分だが、これでは本当に話が前に行かない。 ちょうど飲みやすい熱さになってきたコーヒーをすすりながら、オレは首肯する。 「電話で話しました通りなのですが、山下さんはバスケ部の部長さんをご存知ですか?」 紗希の声色と表情は一変して、落ち着いた感じになり、どことなく緊張感が生まれてきた。その変化を感じ取ったオレも耳に神経を集める。 「有名だからな。名前くらいは聞いたことがある」 「阿久津さんですね。調べによりますと小学三年の時からバスケを始め、小中高と全て県選抜にも選ばれています。それに加えて、この学校では成績トップ。既に進学先も決まっているとのこと。おまけにルックス抜群、高身長。山下さん……どう思いますか?」 「ただただ神が憎いね」 そこでオレに意見を求めるのは、自分と阿久津という男の懸隔を改めて突きつけるためなのか。しかし生憎と自分と他人は一生入り交じることのない、突き詰めると畢竟他人はどこまでも他人であるのだという一種の悟りの境地に到達している。 なのでいくら才能に歯が立たないくらいの違いがあっても、オレには何の影響も受けないのだ。 しかしまぁ、そんな完璧超人を虜にしてしまった、ひとみも誇っていいのではないだろうか。 「そんな呑気なことを言ってる場合じゃありませんよ」女に睨まれた。 「でも今朝に心変わりの心配を否定したのはお前だぞ」 「はい、その心配はしていません。ただ、ちょっと問題がありまして……」
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!