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まあ、依頼屋なんて始めたから今日みたいな出来事が日常になったんだけどな。
思い返す。今までの事を。始まりを。
そんな巡る思考を遮るように―――
「りゅーくんお帰り!」
凛とした声が場に響く。
俺は足元からかけられた声に反応するように上半身を起こした。
家の扉の前に立つ、視線の先に映る人物。長い黒髪を後ろで束ね、黒い大きな瞳は俺に向けられている。
エプロン姿と言うことから夕飯を作っている最中だと言うことは安易に想像できた。
「京香か。ただいま!」
瑞浪 京香(みずなみ きょうか)。そんな名である幼なじみを呼ぶ。
やや広い庭に訪れる静寂は、庭に座り込む俺を夢の中へと誘(いざな)おうとしていた。
虚無の空間。その空間を壊すかのように京香の足音が鼓膜を刺激する。
草の擦れる音。決して大きいとは言えない音は、静かな所為かなんとなく大きく感じた。
京香と一緒に暮らしていて―――側にいて。そんな日常が幸せだとこの頃やっと実感してきた。まるで悪いことが起こる前兆のようだな。
暮らし始めた理由は未だ不明。成り行きに身を任せていたらこうなった。
懐かしいな―――
あの頃の記憶を思い返すのは。
頭の中がゆっくりと過去の記憶へと染まっていく。
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