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不意を突かれ動揺する。でも、まだ大丈夫だ、距離の長さに救われた。
さぁ、どうする。
“ライオンを捕まえろ”
それは即ち殺すのはダメ。そう解釈できる。
そう考えると、最善策は気絶。敵の意識さえ無ければこっちのもんだ。
そう、思い刀に手を掛けた瞬間―――ライオンが方向転換に喫する。絶対中身、人だろ。
駆けるライオン。目指すは窓から顔を覗かせる富田さん。そのまま食われろ。そんな邪念も浮かぶ。
だが、やはり依頼は依頼。遂行するため駆け出す。
間に入る。富田さんとライオンの。うん、どうやって止めようか。
あるのは棒付きの飴玉が二本。使う物は、これじゃないな。
だとしたら残るは一つ。俺はゆっくりと刀に手を掛けた。
そして――間が詰まる。
奏でられる鈍い音。それは一瞬、場を震わせる。
予想以上に重い爪戟は俺を軽々と吹き飛ばした。
宙を舞う。だけど頭は冷静。戦術を着実に練り上げる。
上手く受け身をとり立ち上がる。
痛みは無い。まだ、大丈夫。
敵を見据える。威圧感ある双眼、大きく鋭い牙。それらが、全精力をかけて追撃を仕掛けていた。
どうする。背後は壁。それと富田さん。守りたくなくても守らないと。
だが、止めきれるだろうか。
距離が先ほどより短い分、敵の速度も落ちている。それでも一度は、軽々と吹き飛ばされた。そんな強者に立ちはだかって勝機が見えるだろうか。
いや―――選択肢なんてない。
信じるんだ。自分を。己の力を。
「ふぅ‥」
呼吸を整え構える。真っ直ぐ敵に歯を向けて。
剣先を前に傾ける。一撃、それさえ止めれば光が見えるはず。
緊迫した空間。詰め寄るライオンに刀を構え集中力は切らさない。
「頑張れ~!」
そんな、富田さんの、雑音紛いの声が耳に届いても集中は解かない。
やがて――――互いの武器が交わる。
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