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「僕を殺していいのかい?」
考えを中断させるかのように、葉咲の言葉が鼓膜を震わす。
意外。疑問。頑なに頭が受け入れる事を拒む。
「はっ!?」
想定外の言葉。動揺する俺を余所に話を繋いだ。
「僕が死んだら琉希君もこの世界から消える。即ち琉希君も死ぬことになるんだよ」
考える。集中力は切らさない。動揺を無理矢理抑え込み平然を装う。
「お前が死ななければどうなる」
再び訪れる沈黙。葉咲は考えるように目を瞑った。
葉咲の刀を握る手は軽く、力を込めている様子もない。その上、視覚を完全に閉ざした状態。
葉咲に戦う意志は既に無い。それは、嘗て無い状況。
今攻撃すれば殺せる自信はある。この不利な現状を脱することが出来る。
なのに―――俺の脳はそれを拒否した。
希望の光が射し込んでいるのにそれを自ら捨て去る。
甘い。そう思うが体が言うことを聞かない。
武士道に反する。だけど、それよりも俺は葉咲の話術の虜になっていた。
この話の続きが知りたい。真実を聞きたい。そんな欲望が攻撃という手を止める。
攻撃するべきか、否しないべきか。心中で葛藤を繰り広げる。
やがて、結論に達するよりも早く葉咲の瞼が開かれた。
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