愛し

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「はぁ‥‥」 今日一日、色々ありすぎた。 悔しさが俺を飲み込み京香が倒れた時は本当に死んでしまいたいと思った。 ポケットの中へと手を突っ込む。指先に触れる硬い感触。 それは葉咲から貰ったものであり。俺を迷わすもの。 これがある限りこの悪夢のような出来事が何度でも蘇るだろう。 だが。それでも捨てることは出来ない。 このスイッチが命綱のような物に感じたから。 ポケットからスイッチを取り出す。 露わになるスイッチ。黒い立方体の箱に赤い丸型のボタンが付いたもの。 材質はプラスチックと鉄の中間ぐらいの素人には分からない原材料だと考えられる。 頭の中を巡る仮定。葉咲の話が本当なら。 スイッチを押したら。スイッチを捨てたら。 何度考えたことか。百をも越える程考えた。 にも関わらず。 ――――俺にはそんな度胸は無かった。
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