一難去ってまた一難

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ーーーーーーー 「ちょっと、疲れちゃったね!」 横でそんな言葉がかけられる。溌剌とした笑顔は変わらず、疲れた様子は一切感じられない。 女性の方が元気というのは、まさにその通りだ。俺も笑顔で返そうとするも、疲れからかぎこちない表情になってしまう。 「ほら、片方持つから元気だして!」 返事を待つことなく俺の左手から袋を奪う。そんな優しさに思わず笑みが零れたのは仕方が無いだろう。 三人を家から追い出してから約半刻。空を見上げれば落ち始めた夕焼けが、橙色に世界を照らす。 ありったけの食べ物を食い荒らした三人のせいで、食糧不足。お陰様で、昼は外食、俺一人じゃ少し量の多い買い物まで付き合わされる羽目になった。 右手に二つ持った食料を左手に一つ持ち替える。彼女の左手にも先ほど渡した買い物袋が持たれていた。 横に目を向けると、黒のチノパンにネイビーのコートを来た彼女が、幸せそうな目で前を向いている。 橙色の光が彼女の横顔に灯りを当てる。その景色に。美しさに。彼女の顔に目を奪われていた。 思考が混乱する。頭の中に、感情がよぎる。昨日の戦い。あいつの表情。あいつの言葉。 隣に京香がいるのが当たり前で。今の人生が崩れると考えると不安になる。京香の笑顔は絶対に守りたい。 それでも。だからこそ。あの言葉を信じるか否か。あの言葉を話すか否か。決断すら出来ていなかった。
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