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両手にある袋を左手に束ねて持ち、右手をポケットに入れる。
硬いプラスチックのような感触は紛れもなく、あのスイッチだ。四角いケースに丸いボタン。間違って押さないようにその輪郭をゆっくりと撫でる。
そして、静かに取り出した。プラスチックに赤いボタンが取り付けられており、プラスチックの箱の中には指輪のようなものが幾つか取り付けられている。
京香にはまだ、話していない。どう話そうかなんて、昨日は考える余裕もなかった。自分の頭の整理すらできていないのだから。
あいつの話が全部嘘で。ただの俺の杞憂ならそれに越したことない。不安に晒す可能性があるなら言う必要もない。
でも、もし本当なら。俺はなにも知らせることなく皆を巻き添えにすることになる。
本当にあるのか。異世界が。別世界が。信じれるのか。あいつの言葉が。あいつの目的が。
定まらない。それでも、少しでも可能性があるなら言わなければならない。
帰ったら言おう。そんな、葛藤に葛藤を重ね言うことを決意する。
決意を心に秘め。思考を止め。視線を手の中のスイッチから前へと移す。
「りゅーくんっ!」
そんなに没頭していたのだろうか。気がつけば京香は既にトンネルの出口でこちらを振り返って待っていた。
トンネルの出口から漏れる光が京香を照らす。光の世界にいる京香は美しく一瞬見とれていたが、追いつこうと、足を踏み出す。
「昨日はごめんね。そして、守ってくれてありがとう」
言葉がかけられる。その言葉に俺は一度、足を止めた。京香の表情は嬉しそうで、だけど、申し訳なさそうで。
そんな表情を一転させ、再び口を開く。
「りゅーくんのこと本当に嫌いじゃないからね。だから」
言葉を紡ぐ。口を閉じる。表情は暗くて見えにくいが、少し恥ずかしそうに顔を紅潮させ、だけど、瞳は真っ直ぐこちらに向いており。
静かに言葉をつなげる。
「これからもずっと……ひゃッ!」
言葉は終止符を打たない。小さな悲鳴が最後に漏れる。
「京香ッ!」
トンネルに俺の叫び声が木霊した。
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