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「そーいえば兄ちゃん凄かったよなー!屋根の上ピョンピョン飛んでて、ニン…ニン、何だっけ」
「…忍者、だろ」
「そーそー、それ!忍者みたいだったっ」
「みたいだった…ってお前、見た事あんのかよ」
「ない!」
ちょって待て。ない…だと?
いや、確かにそうだ。俺が森の中からここに来るまで一人たりとも見かけていない。ましてやそれらしき気配すら感じさせなかった。否…無かった。まるで元から存在しない、とでも言うように。
そこで嫌な予感。まさか…そう思いつつ心中で当たるな!と滅多に願う事ではないであろう願いを唱え、尋ねた。
「あんたらさ、忍っていると思う?」
「忍者ですか?んー…居ない、んじゃないですかねェ。現に見た事もありませんし。お伽噺内での存在だと僕は思ってますよ」
「いるなら見てみたいよな!」
「そうですね。僕も同感です」
「(目の前にいるけどな)」
…実にあってほしくなかった事態である。考えてもみれば始めっから可笑しかったじゃねぇか。時間帯の相違。場所の違い。忍の存在と気配の皆無。俺は勘違いをしていた。どこかの小さな町にトばされたんだ、と。でも事実は、どこか“世界の違う”所にトばされたのである。要するにここは異世界と言うわけだ。それでなら十二分に辻褄が合う。
「(さて…これからどーするか)」
帰る術が分からない以上、野郎を探すしかない。そう、俺が殺し損ね、挙げ句の果てには世界の壁を越えさせやがったあの野郎だ。見つけだしてたっぷり礼をしてやらないと気がすまん。その後に巻物を強奪して──そこに踏み切る前にまずは情報収集から…だな。
「忍者が、どうかしたんですか?」
「あ、いや。何でもねーよ。
ただ聞いてみたかっただけだから」
「そんじゃあさ!兄ちゃんはいると思う?忍者」
「!…さあなぁ」
「ふーん。そっか!」
ごちそーさま。と箸を置いた俺は店の窓から外の様子を伺う。どうやらすっかり時間が過ぎてしまったらしい。既に外は真っ暗になっており夜だと言うことを知らせていた。俺につられて同じように外を見た店主も、今日はもう遅いから泊まって行きな。と個室の手配をしてくれた。おお、助かった。野宿しなくて済む。
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