プロローグ

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「志乃介様!?はい、桜美です。ここは…森を抜けたところです。近くに、とても立派な桜も咲いています……良かった…返事がなかったものですから、私はてっきり………」 「………こらこら…人を勝手に殺すんじゃない……そうか、桜か…その桜を、近くで見たい……」 志乃介は体を起こそうとしたものの、全く力が入っている様子は見られない。 「………桜美、すまないが…俺を、桜の側へ、連れて行ってくれないか…?どうやら、もう体に力が入らないらしい……」 「志乃介様………分かりました…」 桜美は志乃介の腕を自分の肩にかけると、何とか立ち上がって志乃介の体を引きずるようにして桜の木の根元へ連れて行き、再び志乃介の体を地面に横たえる。 「…志乃介様、お見えになりますか?」 「…あぁ、よく見える………桜美、もっと近くで、顔を見せてくれ……」 志乃介が空に向かって手を伸ばす。桜美は、その手をしっかりと握り、志乃介の顔を覗き込む。 「…あぁ、桜美………やはり、お前には、桜がよく似合う……こうして見ると、まるで桜の精のようだ…」 「志乃介様、それは褒め過ぎですわ…私が桜の精だなんて………」
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