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森の中を、一組の男女が走っているのが見える。男が女の手を引き、何者かから逃げているのか、後ろを気にしながらもかなり急いでいるらしく、二人共息を切らせている。
男は脇に刀を差した武士のような出で立ちをし、女は豪華な着物やかんざしを身に付けた遊女のような姿だった。
「桜美、すまない…お前を幸せにすると約束したのに、結局はこんな形に……」
「いえ、私の事より…志乃介様や友の事が心配で……」
「友の事は心配だろう…だが、俺まで心配する事はない。この通り頑丈な体だからな」
志乃介と呼ばれた武士は前を見ながらも桜美と呼ばれた遊女にそう話すが、桜美は厳しい表情を緩めようとしない。それどころか、志乃介に握られていた手を振り払ってしまう。
「…桜美?」
「違います!私が心配しているのは、二人のお命の方です!既に決まっていた事とはいえ、友は私の足抜けに手を貸し、志乃介様は足抜けをした私と共にいる…いつ命を失っても、おかしくない状況にいるはずなのに………どうして、そんな風にいられるのですか…?」
よく見ると、桜美の目尻には涙が溜まっている。
「桜美…」
志乃介は桜美の目尻に溜まる涙を拭う。
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