「野球なんかやりたくない」

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閑散とした建物内に突如ファンファーレが鳴り響いた。 由宇がホームランと書かれた的に見事打球を命中させたのだ。 由宇はもはや数えきれないほど、その的を射抜いてきた。 「由宇、ホームラン賞やろうか?」 由彦の茶化す様な言葉に由宇は無愛想な顔で返事する。 「いいよ。どうせコインだろ」 「おう」 「……ほんとケチくせー!!」 由宇は叫びながら思い切り、バットを振る。恐ろしい速度のボールがさらに速い速度で飛んでいく。 もしも、と由彦は思う。由宇が今から高校野球を始めたとして、通用するのだろうか。 しかも野球のエリート達が集う愛国学園で。そんなことはとても由彦には判断出来なかった。由彦には野球に関する眼など備わっていない。 由彦はこの170キロのマシンを導入した日からその判断に迷っていた。試運転と称して由宇を驚かせようと、打たせてみたらいきなり初球を完璧に打ち返してから、ずっと。 野球をやらせようと思っては、もう間に合わないのでは?という考えがよぎり、踏ん切りがつかなかった。 第一、本人にやる気がないのだ。無理やりやらせてもやるような奴ではないと由彦は知っていた。 野球の神様、もしこいつが野球をやるべき人間であるならさっさとやらせてやってくれ。 170キロのボールを打ち返す我が子の姿に父親が罪悪感さえ覚えているとは知らずに由宇はその後もバッティングに夢中になっていた。
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