「野球なんかやりたくない」

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口から米粒が溢れんばかりにおにぎりを押し込んでいる慶介をしらけた顔で由宇は見ていた。 その視線に気付いた慶介が残りのおにぎりを全て口に入れて、由宇の方を向いた。 「ふぁんふぁほ」 「いや、だからわからんて」 「んむんむ……んはっ、だから、なんだよ、って。見てただろ、批判的な顔で」 「ああ、まだ時間あんだからゆっくり食えばいいのに、って思ってた」 「ばっかやろ。余裕なんてねぇよ。だってこれからなぁ……」 慶介は鞄の中を漁り、あるものをぬっ、と取り出した。 「もう一個食わなきゃならんのだから」 そう言った彼の手には先程と同じ大きさのおにぎりが乗っていた。 「……そりゃ、失礼。お食事のお邪魔しました」 由宇が構ってられないと手をひらひら振るのを見るまでもなく、慶介はおにぎりにかぶりついていた。 よほど腹が空いているのだろう。由宇には朝ご飯を食べる習慣がない。しかし、昼過ぎまで腹が好くことはなかった。 省エネだ、食費がかからなくていいじゃないか、とは考えてはみるが、朝から大きなおにぎり二個を腹に収めれるほど何かにエネルギーを使用しているのは同じ高校生としてうらやましく思う。 それほど熱中している物があるという証に他ならないからだ。
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