「野球なんかやりたくない」

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引き続き由宇が慶介の食事を眺めていると、教室にドタドタと足音を鳴らしながら入ってくる生徒がいた。 動きやすそうなショートカットに健康的な体つき、美しいシルエットだ。細く整えられた眉は凛々しい線を描いていて、猫を思わせる両目が印象的だった。 「くらっ!慶介、あんたおにぎり食べてないで私が昨日写させてやった宿題返しなさいよ!」 その女子生徒は慶介の机の上に両手を置くと、彼を一括した。 これも毎日恒例の光景であった。彼女の名前は湊 咲良。慶介の幼なじみである。幼稚園からずっと同じ学校らしい(由宇も同じ地元であるが、慶介とは幼稚園、小学校、中学校全て違っていた)ということを由宇は慶介から聞いていた。 「ふぁ、ふぁふぁふぁんほぉふぁふぁひぃはぁふはぁ」 「鞄の中にあるって?どこよ?」 咲良は慶介の鞄を手にとり、中を探し始めた。 「……んーと?ったく、整理ぐらいしときなさいよね。―――なに?私の顔そんなに面白い?」 二人のやりとりを見ていた由宇を咲良がぎろりと睨んだ。女性ながらなかなかの迫力があり、由宇は思わず怯んだ。
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