「野球なんかやりたくない」

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少年が振ったバットはボールの遥か上を通過し、空を切った。 まだ小学生くらいに見える少年は気恥ずかしさからかあまり周囲を見ず、地面の一点をじっと見つめ、再びマシンの方を向く。 まるで今、空振りしたことなどなかったように。 御上 由宇はその光景を見ながら、飲みかけのリンゴジュースを飲みきり、空になった容器をゴミ箱へ入れた。 春も過ぎた六月。徐々に夏に向けて気温も上昇し始めている。 ここは北海道のとある街にあるバッティングセンター。 街にひとつだけしかないバッティングセンターで老若男女問わず街の人達の娯楽の場として親しまれている。 由宇はそのバッティングセンターの一人息子でこの春、高校生になったばかりだ。 しかし、高校生になったからと言って昔からの無気力な性格が劇的に変化する事はなく、休日はこうしてだらだらと実家の手伝いをする事以外特にやることはなかった。
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