「野球なんかやりたくない」

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野球ってどんな感じなんだろう。由宇はふと思った。 バッティングは小さい頃からしていたが、キャッチボールはしたことない。ルールすら知らない。どこかの球団がリーグ優勝したときだけ、ニュースで知るだけで、野球選手の名前も知らない。 家がバッティングセンターのくせに、とは思うが、親父だって野球は門外漢だ。由宇にとってバッティングと野球は別物だった。野球というものが全く分からない。 今まで全く興味が沸かなかった。だが、高校に入って慶介に野球部に勧誘されるうちに、徐々に興味が沸いてきていることに由宇は気付いていた。 野球。楽しいのか辛いのか。楽しくて辛いのか。それはこの何もない自分の憂鬱を吹き飛ばしてくれるのか。 いつしか由宇はグラウンドの前に足を止めていた。 「おい!御上!何やってんだ行くぜ」 友人の一人が声をかける。友人達が数歩先で由宇を怪訝そうな顔で見ていた。 「おお。わりぃ」 由宇がグラウンドから目を放し、歩きだそうとすると新たな方向から声がかけられた。 「由宇。なんだ、見学希望か?」 振り向くとグラウンドの金網越しにユニフォーム姿の慶介がいた。 白いユニフォームは土で至るところが汚れていた。しかしそれ以上に逞しい四肢が目を引く。同じ高校一年とは思えない。 由宇も日頃の実家の手伝いなどで鍛えられており、体格はかなりいい方だったが、慶介の鍛えられた筋肉と見比べると見劣りしてしまう。 由宇の筋肉は美しさに欠けるとでいうようだった。目的のために鍛えられたものには美学がある。
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