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由宇は目の前の男が何を言ってるかを理解するのに時間がかかった。
野球の才能の塊のような男がそんな事を言い放ったのだ。
冗談にしては質が悪い。
しかし慶介の瞳は揺るがずまっすぐ由宇を見据えている。
人をからかう時の軽薄さや嘘をついた後ろめたさなどいっさいなかった。
つまり、慶介は本気で言っているのだ。由宇に野球の才能があると。
おもいっきりからかわれた方がまだ反応できると由宇は思った。
「絶対お前は野球をやるべきだ。俺はそう思う。本気で。なぜならば―――」
慶介は目にぐっと力を込めて言った。
「お前は俺達を甲子園に連れていく男だ」
まるでトドメを刺すように言葉をかけられ、由宇は開いてた口をつぐんだ。
慶介は俺に期待をしてる。恐らくとんでもなく大きな期待を。無根拠で。
なんて言えばいいのか悩んでいると、遠くから慶介を呼ぶ声がした。
「……やば、監督だ。行くわ俺!いいか由宇、見学ならいつでもこいよ!俺は本気だからな!」
「あ、おい……」
慶介はくるりと身を翻して、由宇とは正反対な方向に駆けていった。あっという間に背中が小さくなっていく。さすがの足の速さだった。
慶介に取り残された格好の由宇だったが、彼もまた友人達に呼ばれた。急ぎ立てる声だった。駆け足で友人達に追い付く。
「何話してたんだよ。あれ篠宮だよな?」
由宇は慶介の言葉を思い出す。頭がごちゃごちゃに混乱した。髪の毛をかきむしる。
「―――ったく、なんだってんだ。あー!」
「うるせぇな、お前」
「わりぃ……。あーあ」
由宇は深いため息をついた。
「甲子園って確か……大阪だったか?」
残念なことにこの場には甲子園の場所を知っている者は一人もいなかった。
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