26人が本棚に入れています
本棚に追加
「うへ。嫌になんねーのかよ」
「なんないなー。お前もやってみればわかるさ」
由宇はしかめっ面で言葉を返した。
「野球なんかやりたくない」
慶介はいつも通りの由宇の返答にやれやれ、と言った調子で肩をすくめた。
「そういや親父さんは?」
「ん?ああ、親戚のおばさんとこの弁当屋のヘルプ。ぎっくり腰やっちゃったんだとさ」
「大変だな」
「そんな大事じゃないとは思うけどな。ほら、チケット持ってさっさと帰れ」
由宇は机の引き出しからチケットの束を取り出し、数えながら慶介に渡す。
ミカミバッティングセンターではサービスチケットというものがあり、1000円で、100円のメダル一枚と交換できるチケットを11枚を購入することができる。
1000円で100円分お得なこの券は常連には人気であった。
慶介は由宇のしかめっ面に苦笑いしながら財布から2000円を出して、チケットを受け取った。
そして、すぐチケットを5枚ちぎって由宇に差し出した。ちなみに一枚10球である。
「ほんとに飽きないのかよ」
「全然飽きないって」
由宇は呆れたようにため息をついてから、引き出しの奥にある透明なケースに大量に入っているメダルから5枚取って慶介に渡す。
ミカミバッティングセンターはメダルを購入する方式になっていて、普段は販売機で買うのだが、チケットの場合はカウンターで交換になる。
「さんきゅ」
慶介は受け取った右手を軽く上げると、真っすぐ奥から二番目のコースに向かっていった。
最初のコメントを投稿しよう!