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「すごいよなぁ。一年生で、もうこの前の練習試合スタメンだったんだよ」
野球の強豪校で一年生の時点からその実力を認められるということの凄さは由宇にもなんとなく想像がついた。
「プロとか行くんじゃないのか?あいつ教室にいるときでも野球の話しかしてねーもん」
「由宇君もせっかく愛国学園に入学したんだから、野球部に入ったらどうだい?バッティングはここでやってるだろ?」
ニヤニヤしながら言う房具屋の店主の口振りからそれが冗談だとわかったので、由宇は適当に返事する。
「そだな。考えとくわ」
そして二人で大きく笑った。
由宇は、慶介もこれぐらい分かりやすい冗談を言ってくれればいいのにと思う。
慶介は由宇をなぜか野球部に勧誘していた。由宇が断っても断ってもことあるごとに入部を勧めてくる。
多分からかっているのだと由宇は思っているのだが、彼の目があまりにも真剣なので、本気で誘っているのか?と疑うときがある。
しかし、まさか。いくら何でも愛国学園みたいな強豪の部活に自分みたいな素人を誘う理由なんて考えられない。
バッティングは家柄上、経験あるとはいえ、それ以外はど素人の自分を誘う理由なんて。人数不足なんて理由じゃないだろう。確か愛国学園の野球部員は70人以上いるはずだ。
まさか、俺を部員にしてセンターをただで使い放題にしようと?いや、しかしそんなこと、慶介がしないだろう。あいつはそういうせこい事が嫌いだ。例え先輩に命じられても断るに決まってる。第一、俺がそんなことを言われて従うなんて思わないだろう。
じゃあなぜ?
由宇にはまったく皆目見当が付かなかった。本人に聞こうにも、慶介にそういう話をして興味があると思われるのが面倒くさくて嫌だった。
「じゃ、由宇君。父さんによろしく」
文房具屋の店主は慶介のバッティングをじっと見ていたが、飽きてしまったのか、手を振りながらドアへと歩いていく。
「了解。伝えておく」
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