「野球なんかやりたくない」

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☆ 慶介が帰ると、センターは急にがらんとした。閉店の時間が近づき、蛍の光のメロディがあたりに響きはじめた。 「さてと……」 由宇は手慣れた手つきで片付けを始める。売上の集計、『営業中』と書かれた看板をしまい、ボールを集める……物心ついた頃から行っている仕事だ。 するといきなり自動ドアが開き、来店を知らせるチャイムが鳴った。 「すんません。もう終わったんすよー、……ってお前かよ」 由宇が何かを損した様に呟く。目線の先には自分の父親である御上 由彦が立っていた。 大柄で毛むくじゃら。遠くから見れば熊に間違えそうな人物だ。 「なんだその言い草は!?お土産買ってきたってのによ」 「どうせ真知子おばさん家の向かいの駄菓子屋のだろ?」 「ばっか言え。コンビニだ」 そう自慢気に言う父親を見ながら由宇は大きくため息をついた。 「で、どだった真知子おばさんの具合」 「まだ歩けなさそうだったが、元気はあったぞ。でもやっぱきついみたいで明日からは店休むとさ」 「ふぅん。大変だよなこの忙しい時期にぎっくり腰とは」 「少し頑張すぎなんだよなぁ」 由彦は手荷物を近くにある休憩スペースのテーブルの上に置いて、シャツの腕をまくった。 「うし、おしまいっと」 由宇はボール集めを終え、由彦の元に走り寄った。 「じゃあ、今日のバイト代くれ」 「おお、そうだったな。ご苦労であったな息子よ」 由彦はカウンターへまっしぐらに向かう。そして、バッティングセンターのコインが入ったケースを取り出し、無造作に何十枚か取り出した。 「ほら、バイト代だ。遠慮せず受けとれ」 「……なんかの手違いでは?」 「何言ってんだ。俺がコイン以外で払ったことあったか?無駄な抵抗だ受けとれ」 由宇の顔がたちまち曇った 「今日は一日いたからちゃんとくれると思ったのに」
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