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「ねぇ、何聴いてるの?」
「これ?…最近ラジオで知ったんだけど、けっこういいんだよ」
「ふーん、女の人?」
「うん。
バンドとかじゃなく、この人ひとりだけで活動してるんだけどさ、なんかYUIとかsuperflyとかとも全然ちがって、唄も特別上手いわけじゃないんだけど、こう、なんつーかぐっとくるんだよ」
駅前のファッションビルの地下にあるタワーレコードに居るときのことだ。
制服を着た高校生のカップルのしている会話がふと耳に入った。
視聴コーナーの前、紺色のアウトドアのリュックを背負った少年が視聴用の曲をヘッドフォンから聴きながら、隣にいる少女に何やら説明している。
「どっちかっていうと、Coccoっぽいかも。
でももっと、えげつない」
「えげつない?」
「ネガティブすぎて、キッツーってなる。
でもそれがいい」
「へぇ。
わたしも聴いてみたい」
「ん、ほら」
そう言って、少年が少女へとヘッドフォンを手渡す。
僕はその様子をちらりと横目で見て、それから備え付けのCDプレイヤーに表示されている視聴できる曲のリストを確認した。
新しくリリースされたアルバムの中から何曲かピックアップされたのだろう、見知ったタイトルがみっつ。
そしてその横には彼女の名前が書いてあった。
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