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石ぐらいなんとでもなるか。機嫌も悪くないしこういう気まぐれもたまにはいいかな。
「ほら、いいよ」
「おお、ありがとー。お前良い奴だなー」
妖精は笑顔で石を受け取りクルクルと嬉しさを表現している。
釣り糸は何も反応はなく小さな波紋によって揺れるだけだった。
「きれーだなぁ」
妖精は帰らず隣にちょこんと座って石を眺めていた。
変に懐かれたようだ。石を与えればどっかに行くかと思ったが逆効果だったのか。害は今のところ寒い以外ないわけだからほっといても平気か。
「あれ? なぁ、この石ってこんな色だったか?」
「?」
石をこちらに見せる。さっきはなんの変哲もないただの石の色だったが少し赤く澱んだ色になっていた。
妖精に反応したのか。どうやら強い妖力や魔力に反応する奇石だったみたいだ。光る程度の石なら他にもあるし、やはり重要なものでもなかったようだ。
「多分、君に反応したんだよ」
「そうか、あたいは選ばれしモノだもんね。さすがただの石でもあたいの凄さがわかるのね」
良く分からないが、もっとその石が気にいったみたいだ。
釣り糸に再び視線を移すとその瞬間に寒さとは違った悪寒が背中を無暗に駆け巡る。
とてつもない嫌な予感がする。第六感なんか信じているわけではないが良い心地が全くしない。
昔から知っている悪意が近づいている気がする。
湖が先ほどよりも荒れ釣り糸はゆらゆらと揺れ空気が重くなる。
「あら、釣りなんて退屈なこと楽しいかしら?」
空間が裂けた隙間から彼女は不敵な笑みでゆっくりと現れる。
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