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「…ん。」
私はだんだんと意識を取り戻して、夢の世界とお別れ。
目を開けてみると、見慣れない天井。
「…私は…。」
あぁ、そうだった。
襲われたんだった。
下腹部に手をあててみる。
が、痛みはない。
むしろ痛いのは後頭部だった。
「あ、起きてる。」
ふと、隣から声がした。
「佐野、大丈夫だ。」
その声は、他の誰でもない――…
「仁科先生…?」
あぁ、シトラスの香りは夢じゃなかったんだ。
「わ、私、どうなったの?…あの人は、だれだったの?」
自然と声が震える。
「お前はどうもしてない。強いて言うなら頭を打ってるぐらいだな…。」
そう言って、優しく頭を撫でてくれた。
「うん、いたぃ…。」
ズキズキと痛む頭を押さえる。
「それじゃあ、私…。」
「うん、未遂だったからな。処女のまんまだろ。」
み、未遂!
し、処女…
呆れた、この先生。
本当に、先生なのか疑われてもおかしくない発言。
…でも。
「よかった…。」
反抗なんかする気も起こらなくて。
今まで張り詰めていた、恐怖が、
不安が、
虚無感が、
全て吹き飛んで。
その代わり、涙が溢れた。
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