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「帰り飯行こか」
「ええなぁ」
ちょっと待って。そんな気分じゃない。
『俺、帰るわ…』
「なんでっ行こうや!」
ヤスが俺の腕を握ったけど、ヨコがその手を引きはがした。
「今日は帰れ。また行こうな?」
「ほなおつ!」
『っごめんな…』
また、ヨコやヒナに心配かけて…。俺、ほんまどうしたいねん。
何もかもが順調なのに、この雨が俺を可笑しくする。何やってんのやろ…。
「どーしたん」
灰色の空を眺めて、顔中に雨を受けていたら目の前から声がして。
目の前には心配そうに俺を見る大倉と錦戸がいた。
「俺、みんなんとこ行ってるわ」
俺に傘を差し出さなかったのは錦戸の優しさだろう。性格が似てるからこういう時はありがたい。
「んで、どした?」
『‥何が嫌とか、こういう事が不満でとかそんな事はないねん…』
「うん」
『こうやって、大嫌いな雨に当たっていたら何もかも嫌になる。でも、雨に流してほしいねん。心のモヤモヤも、自分の中の汚い部分も』
空に手をかざしてみるけど、何かを掴めるわけでもなくて。
『こうしてると、ふと思う事があんの』
「我に帰る?」
『‥違う。俺はちゃんとココにおるのかって、浮いてへんかなって』
右手を強くかざ翳し見ると、心が絞まる。
『それで、確認する為に下を見ようとすんの。せやけど怖いねん。それでもし俺が消えそうになってたらって――』
凍えそうな雨の中、ありえるはずのない温もりが俺を包み込んだ。
「なんで、下を見ようとするん?そんな必要ない。もし浮いてたら、俺らが手を握っとくやんか」
大倉の口調が強まって、体が痛いくらい抱きしめられていて。
「すばる君の歌が、すばる君がココにいることを証明してるでしょ」
数年前まで名前すら知らなくて、数年前まで俺を怖がって、数年前まで俺が励ましていて。
大倉は、ずっと傍に居た筈なのに、いつの間にか成長していて。
『…ありがとう』
少し照れ臭かったけど、顔を見られていない安堵感からか、何となく平気だった。
『俺には、こんな最高な仲間がおるしな』
首元で大きく頷いた大倉は、いつも通り独特の笑いを零した。
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