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◇
「あ……暑い……暑すぎるよ……。アレク、おぶって」
「そんな事したら、余計に暑くなると思いますが?」
涼しい顔で言いながら、背中に向かって飛びかかってきたシルフィをひらりとかわすアレク。
彼の足元で少女が「あうっ!」という間抜けな声を伴いながら砂の絨毯(じゅうたん)にダイブしたのは、言うまでもない。
「……無駄に動くから暑いのだ、バカ者め……」
砂漠の屍の如く、微動だにしないで地に伏せるシルフィに罵倒を浴びせながら、彼女の横を亀のようにのろのろと通り過ぎてゆくベル。
気のせいか、彼の語調にも常時の力強さがまるで感じられない。
砂と岩のみが描き出す殺伐とした風景と、遥か彼方の地平線の上にぽっかりと浮かぶ灼熱の太陽。魔導士の二人がここまで疲弊するに至った経緯を説明するには、十分過ぎる材料だ。
橙色の髪の女騎士――ティアラはそんな彼らの様子を見て、ふと心配の種を覚えたのだろう。額を伝う大粒の汗をローブの袖で拭いながら、自らの隣を歩く王女に体の状態について尋ねた。
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