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(結局、僕は何も救えなかった。滅びへと堕ちてゆく世界も、彼女の心も――何も……)
光輝くこの空間で一人、牢獄のような氷塊に閉じ込められた桃色の髪の女性――ナギに虚ろな蒼眼を向け、内心呟くユリウス。
その表情には、彼のやるせ無い思いが明確に浮き彫りとなっている。
光の拘束によって、十字架に縛りつけられているかのように眠る銀髪の少女リフィリアと、彼女に対する憎しみを絵にしたような表情を浮かべている氷中のナギ――そしてユリウスの三人以外、この光の世界には誰もいない。
そんな、金髪蒼眼の少年の息づかいしか聞こえない程の静寂に覆われたこの世界に、先程まで存在し得なかった者の声が何の前触れもなく響き渡った。
『――どうやら、ナギを止める事に成功したようだな……ユリウス』
『……ラスタリカ……』
声の主の名を口にすると共に振り返り、自身がラスタリカと呼ぶ男の姿を視界に捉えるユリウス。
そこにいたのは、金銀の装飾があしらわれた剣を腰に携えている茶褐色の髪の男で、その男は溢れんばかりの威圧的なオーラと共に、銀の曲線が織り込まれた白の剣士服を身に纏っている。
ラスタリカは茶色の瞳でユリウスの沈みきった心情をくみ取り、何かを諭すかのようにそっと言葉を発した。
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