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『頼む、ユリウス。神威を宿したこの剣を折るには、同位かそれ以上の神威をぶつけるしかない。それが出来るのはユリウス――お前だけだ』
『……この僕に、あなたを殺せというのですか?』
『そうだ』
今にも壊れてしまいそうなユリウスの問いかけに、迷うことなく答えるラスタリカ。その瞳に躊躇(ためら)いの色などは欠片も無く、逆にユリウスの方が踏ん切りをつけられずにいる。
ラスタリカは自らの胸に握りこぶしを当て、ユリウスに訴えかけるように言った。
『これは、私のけじめでもある。世界に刻まれた負の連鎖を断ち切ることが出来なかった私への――戒めだ』
『……それでも僕には……出来ません。これ以上、あなたのような人を犠牲にする訳には――』
『ユリウス。これは決して、犠牲などではない。どうか私の最後の頼みとして、聞き入れてはくれないか?』
ユリウスの言葉を遮り、語気をよりいっそう強めて懇願するラスタリカ。彼が差し出すように構える金銀の剣も、まるで自らの終末を望むかのように世界の光を反射させている。
『…………っ!』
幾分かの葛藤の後、意を決したように右腕を横一線になぎ払うユリウス。
空を切った少年の腕の先――手には、凍てつく氷で錬成された剣が握られていた。氷剣の発現と共に纏われた藍色の光を放つユリウスのフィアシスが、淡く煌めく。
これが、苦渋の末に導き出した答えだとでもいうかのように――。
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