序章【継承と剣】

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  『どうして……あなたという人はいつも……っ!』 『…………』  氷剣を振り上げる動作と同時に、かすれた声で言葉を漏らすユリウス。  しかし、ラスタリカはそれに対する応答を返そうとはしない。彼の表情は至極穏やかで、来るべき死を受け入れた聖人であるかのようにただ、瞳を閉じている。 『――っ……【アイスエッジ】!』  フィアシスによる威力強化を伴い、振り下ろされる氷剣。次いで辺りに響き渡ったのは、二剣が衝突し合う高音――そして次の瞬間、氷剣はユリウスの手中に柄の部分だけを残し、粉々となった氷片は宙へと霧散していった。  爛々と輝く氷粒が頬を撫でる中、ユリウスの顔が驚愕に歪む。 『――!?』  持てる神威を全て注ぎ込んだ渾身の一振りが、無防備に構えられた一本の剣に敗れ去ったというのだから、少年が意気消沈するのも無理はない。  しかし、その気落ちが杞憂(きゆう)であったということに、少年はふと気付かされる。  失意を抱きながら見開いた視界に、ボロボロと風化していくかのように砕け散るラスタリカの剣の姿が見えたからだ。  ラスタリカは穏やかに閉じていた瞳をゆっくりと開け、ポツリポツリと言の葉を水面(みなも)に浮かべるかのように言葉を紡いでいった。  
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