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どこで掛け違えてしまったのだろう?
今ならまだ掛け直すことができるのかな……いや、無理だ。だって、一度掛け違えたら………
ポツリポツリとまるで私の想いを隠すかのように雨が降り出した。その一粒一粒の雫は重く、冷たく、また情も含まれていた。
「あっ、傘…。」
いつも傘は君が持っていて、それで二人でよく相合い傘をしたよね…。普段はどこか抜けてる君だけど、傘だけは忘れたことなかったね……。
私は屋根の付いているバス停へ向かって歩みだした。君のことを想う度に比例するように、空気は重くなり、雨はより一層私を濡らした。
「一度だけ…。たった一度だけ傘を忘れたことあったね。」
私が貧血で倒れて病院へ運ばれた時、雨の中必死に自転車をこいで来てくれたんだよね。結局大したことなくて、すぐに家に帰れるってなって傘がなくて困ったよね。あの時は、君が傘になってくれたね。
覚えてる?その時に言ったこと……
「傘っていう字は、人っていう字をいっぱい書くだろ、だから、これぞまさに傘だなっ。これから傘がなくて困ってる時は俺が傘になるよっ。」
「今……私、傘がなくて困ってるよ……。あの時言ったことは嘘だったの?」
バス停が見えた。そこにはこの雨のせいなのか人気がなかった。
「ビショビショになっちゃった……。」
その言葉さえも、この雨の中では掻き消されてしまう。君へは、もし雨が降っていなくても届くことはないだろう……この想いは。
遠くからまるで、明日への希望を運んでくるかのように、暗い雨の中にポツリとライトを付けてバスがやって来た。
「これで最後だね…………さ ょ ぅ な………………。」
どうしても最後の一文字が出なかった。それを言ってしまったら、今までのことが全て嘘になってしまう気がしたから……。うぅん、違う。本当は君と別れたくないから…。
「もう一度だけ会いたいよぉ………」
しかし、その言葉は決して届かない。どんだけ会いたいと願っても……。
私は雨で冷え切った体を、大きな偽りの傘へ運んだ。
それが明るい明日へ届くことを信じて………。
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