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もう限界だ。
いつまでもこんな苦痛を味わいたくない。
やるなら、今夜だ。
いや、やるしかないんだ。
彼はナイフをじっと眺めた。
月明かりが刃をギラリと照らしつける。
「っ!?」
背後に気配を感じ、振り返る。
「なんだ……犬か」
漆黒の犬。月明かりがなければ、きっと夜に溶け込んでいただろう。それくらいに、漆黒だった。
不思議な目をした犬だった。
瞳だけが妙にぎらついていて……まるでそこに月があるかのようだった。
彼は背筋を震わせた。
行こう。
決意が鈍る前に。
去りゆく彼の背中を、漆黒の犬がじっと見つめていた。
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