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「早く舟に乗れ、日も暮れてしまう。」
と言うので、舟に乗って川を渡ろうとするのだが、みんなはなんとなく悲しくて、都に恋しく思う人がいないわけでもない。
ちょうどそのとき、白くてくちばしと足とが赤くて鴫ほどの大きさである鳥が、水の上をすいすい動き回りながら魚を食べる。
都では見かけない鳥であるので、みんな名を知らない。
船頭に尋ねたところ、
「これがあの都鳥だよ。」
と言うのを聞いて、
都という名を持っているというのなら、さあ、尋ねてみよう、都鳥よ。
私の恋しい人は都で無事でいるのかどうかと。
と詠んだところ、舟に乗っていた人は残らず泣いてしまった。
[第九段]
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