伊勢物語の巻

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[東下り] (1/3ページ) 昔、男がいたそうだ。 その男は、我が身を必要のないものと思い込み、京には住むまい、東国の方に住むのによい国を探しにいこう、と思って出掛けた。 男は以前から友としている者、一人二人と一緒にいった。 道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。 やがて三河の国の八橋というところに着いた。 そこを八橋と言ったのは、水の流れていく川が蜘蛛の足のように八方になっているので、橋を八つに渡していることによって八橋と言うのであった。 その沢のほとりの木の影に下馬して座り、一行は乾飯を食べた。 その沢にかきつばたがたいそう綺麗に咲いている。 それを見て、ある人が言うには 「『かきつばた』という五文字を歌の句のはじめに置いて、旅の気持ちを詠みなさい。」 と言ったので、その男が詠んだ。 着慣れた唐衣のように慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばるやってきた旅の遠さがしみじみと感じられることだ。 と詠んだので、みな、乾飯の上に涙を落として、乾飯はふやけてしまった。 更に進んでいって、駿河の国に到着した。 →Next
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