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幸子は
逃げることも叫ぶことも出来ず
ただただ立ち尽くしたまま……
眼をそらすことも出来ず
凝視していて気がついた。
「人」ではない。
「マネキン」だった。
ご丁寧に服も着せられて
ぶら下げられていた。
あたしの行動を見越して
これを仕掛けた人間がいる!
ということね……
俄かに恐ろしさが
込み上げてくる。
ドアを閉めると
自分の部屋へと急いだ。
幸子は玄関へ入り
鍵をかけた。
ゼイゼイと肩で息をしている。
階段を駆け上った
せいだけではなさそうだ。
誰が……
一体誰が……
やはり、あの男なの……?
靴も脱がず
明かりも点けず
暗い玄関で考え込む。
さっきのマネキンを思い出して
ブルッと身震いした。
カタン。
「キャッ!」
ドアの郵便差込口が鳴って
幸子はビクッとした。
封筒がストンと床へ落ちる。
恐る恐る拾う。
ごく普通の茶封筒だ。
差出人の名前はもちろん……
幸子の名前すらも書いていない。
手で破ろうとしたのを思い直して
はさみで封を切る。
やっぱり……
というべきかカミソリの刃が
内側に貼り付けられていた。
封筒の中には
折りたたんだ紙が入っている。
そうっと引き出す。
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