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一歩踏み出そうとした足を
辛うじて踏みとどまり
慌ててドアを閉める。
驚きすぎて声も出ない。
手がわなわなと震えている。
玄関のドアの前には……
10匹くらいの虫の死骸が
散らばっていた。
あたしの大嫌いなあの虫……
カマドウマと言うのよ、確か。
あのやたらと長い脚と……
テラテラと光るあの色……
じっとしていたかと思えば
急に跳び上がる。
しかもどこに
跳ぶか分からないあの動き……
なにもかもが気味悪く
おぞましい……
誰の嫌がらせかしら……
1匹や2匹ならともかく
10匹以上はあった。
嫌がらせ以外には考えにくい。
幸子は
泣きそうになる気分を抑えて
ふぅ~っと深呼吸をすると
ほうきとチリトリを手にした。
ドアノブに手をかけ
もう一度大きく深呼吸をする。
そして覚悟を決めて
ドアを開ける。
「……えっ……?」
幸子は自分の目を疑った。
ほんの何分か前まで
散らばっていたあの虫の死骸が
跡形もなく消えている。
……幻覚?
……これは夢?
……あたしがおかしいの?
……ちがうわ!
……幻覚なんかじゃない!
……夢でもない!
……しっかりするのよ、あたし!
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