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アジトに戻ると、久しぶりにハカセがたたずんでいた。
『お、ハル!久しぶりだな』
ハカセはまたたくさんの植物を持ち帰り、入念に選別しているようだった。
『ハカセおじちゃんこの葉っぱなぁに?』
鼻が詰まったような甘えた声でハカセにそうたずねるのは俺の子、サクラ。
『サクラ、ハカセの邪魔しちゃダメだぞ』
そう言う俺を片手で制し、ハカセはサクラに丁寧に葉の説明をしてくれている。サクラはそれを不思議そうに聞き入っている。
『あらあら、サクラはあなたよりハカセさんの方がお気に入りかしらね』
そう微笑むのは俺の伴侶、生涯ともにすると決めた元々カタギだったヒメ。ヒメという名は実はJがつけた名だ。
ヒメは、幸せだったはずの人間との生活を突然終えることになってしまった。飼い主の家が火事になり、助かったのはたまたま出かけていたヒメだけだった。
茫然自失で彷徨っていたヒメを俺が見つけ、長い時間をかけてゆっくりと心を通わせてきた。
ヒメはショックからか、人間に飼われていたころの名を思い出せず、Jが美しい猫だからという理由でヒメと呼んだのが始まりだった。
『からかうなよ』
俺ははにかみながらヒメのもとに寄り添った。毎日が平穏無事に流れていた。
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