序章

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「好きなんだ。同窓会で再開して、またおまえを見たときにもう一度好きになったんだ。昔も好きだったけど、今もまた。もう二人の人生が交わることはないかもしれないけど、それでも俺は!」 新幹線の出発を告げるアナウンスがホームに鳴り響く。昔からよく電車のドアを挟んだ車内とホームとの距離は、何歩より距離のある一歩だというが全くもってその通りではないだろか。二十年間踏み出せなかった距離。その距離をやっと進んだつもりでいたのに今度は二人をまたわかつことになる一歩。 「ありがとう。」 彼女は顔を真っ赤にしてそう答えてくれた。 「また…… いつか会おうね。お互いの夢を叶えて、ここ東京で。」 彼女がそう言うとドアを閉めるためのブザーが鳴った。僕はさよならだけを告げて、振り返らず逃げ去るようにしてその場を去った。長年踏み出せなかった距離をつめたつもりだったのに、「付き合って欲しい」の唯一言が言えず、最後の一歩分の距離だけが残ってしまった。でもそのときの僕には言い切った達成感と、ごめんなさいと言われなかったことの安心感だけで天にも昇れる心地だったのだ。
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