1章

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1章

「……はぁ。」 冬も終わりなはずの3月頭の頃。あたかもこれが最後だなんて言わせないと自己主張するかのような季節はずれの雪が東京に降り積もり、昼間だというのに気が滅入るような暗さだ。紫野満代の部屋が片付いていないのはいつものことながら、外の陰鬱さと内面の陰鬱さが相まって余計に部屋の中の混沌具合を強調しているように思える。しかも、男二人きりだというのだから息も詰まって仕方がない。 「おいおい、元気出せよ。フられたからっていくら何でも引きずり過ぎだって。もう一ヶ月だぜ?いくら何でも立ち直れよ。」 真崎正司がベットの上に寝転がってマンガを読みながら話しかけてきた。真崎は大学から出来た友人で、最近気付けば紫野の部屋に来てる気がする。あまり広くない部屋の大部分を占めるベッドの上に真崎の巨躯が横たわっていると、部屋の窮屈感が際だって感じてしまう。 「ミツヨちゃーん。無視ですか?」 「うるせぇよ! それに俺はミツヨじゃなくて、マンダイだ!そのあだ名で呼ぶ名って言ってるだろボケ!」 「で紫野。まだ吹っ切れてないとはおまえ…… よっぽどだな。」 「こちとら約二十年間好きだった思いが弾けたんだ。そう簡単に立ち直れてたまるかよ。」 「あらまぁ一途なことで。だから幼なじみはやめとけとあれほど言ったのに。」 「それを言うな…… 全てぶっ壊れた訳ではないから大丈夫だ!」 「そうは言うけどよ。おまえ前みたいに向き合えるのか?」 「演じれるよ……」 時は一ヶ月前に遡る。ミツヨこと紫野満代は幼なじみに告白してフられた。幼なじみと言っても、学校が同じだったのは小学校まで。そんな縁なんていくら家が近かろうと別の世界で生活するのだから、何のアクションを起こさなければ距離が離れていくことなんて第三者的に考えて見れば、猿でも分かることだ。告白して何かをなくすかもしれないのは辛いが、言わない後悔の方がもっと辛い。そんなことを紫野は中学で離れ離れになった時、身にしみて感じた。だからこそ、長年の思いを伝えたのだが、時間と思い出には勝てなかった。 「幸せになれるのは満代と付き合った方かもしれないけど、思い出がないから、ねぇ。悪女にはなれませんだってさ。」 「それ聞いたの何回目だろうな。」 「だって幸せになる方を選ぶとか言ってたじゃないか!だらしないし、なんかぱっとしないって言ってたじゃないか!」 「それも何回目かな~。」
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