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ありふれた街のありふれた商店街。そこにその店はあった。
狭い裏路地の奥の方に隠れるように建っているため、その存在を知る者は少ない。100人に聞けば、99人が知らないと答えるだろう。
そんな知名度の低い店の二階に、その店の店主はいた。
茶色の腰まである長い髪と、この世のものとは思えないくらいの美貌。華奢な身体は今にも折れてしまいそうだ。今は目を閉じているが、その瞼の裏には吸い込まれそうな漆黒の瞳が秘められている。
一見女に見えるだろうが……正真正銘「男」である。
あどけない寝顔は、見た者を一瞬で虜にしてしまうだろう。
彼は今、ベッドで丸くなりながらすよすよと眠っていた。
「すぅ……すぅ……」
すでに日が高く昇り、そろそろ昼に近付いたその時。
バンッ
「悠希、起きる時間はとっくに過ぎてるよ!」
「ん゙~……みたに~…あと一時間……」
「そこは『あと五分』だろう?普通一時間なんて言わないよ。まぁ、君らしいけどさ」
深々とため息をつきながら、悠希と呼ばれた少年に掛けられている掛け布団を三谷と呼ばれた少年はベリッと引っぺがした。そのため、丸くなって唸っている悠希の姿が丸見えになる。
三谷啓太。黒髪と黒い瞳の、美形と呼んでも良い顔立ちの少年だ。身長は歳のわりに高く、かと言ってがっちりとはしていない。どっちかと言えば細い方だ。
啓太はまだ抵抗する悠希の耳元で、ふぅっと息を吐いた。途端に悠希が可愛らしい悲鳴を上げながらバッと起き上がる。
「ひぁっ」
「相変わらず、耳が弱いね」
クスクスと可笑しそうに笑っている啓太をギンッと睨みつけると、悠希は顔とは似合わない言葉で啓太に怒鳴り付けた。
「三谷テメーっ!!普通に起こしやがれっ!」
「すぐに起きない君が悪い。嫌だったら、僕が起こす前に自力で起きる事だね」
怒鳴り声もなんのその。軽く受け流して、啓太は階段を降りて行った。
一方、今だに怒りが収まらない悠希は、とりあえず枕を階段の方へと力任せにぶん投げたのだった。
この店の名は【なんでも屋】
犯罪に関わる事以外ならなんでもやってくれる
開業して、まだ一ヶ月である
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