罪の遺産

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「行かねえとあいつがっ…」 知らず知らずのうちに 声が震えている 「今 …行っても 間に合わねえよ…」 土方が言ったとおり 狙撃者の姿は何処にもなかった 絶え絶えに話すお前が聞いていて痛々しい 「…そんなことより お前といたい…」 まるで何一つなかったような口振りが苛立たしい お前は心臓を撃たれているのに そんな呑気なこと言ってんじゃねえよ… 土方は俺を抱き締めていた 「自分の… 身体だ もうダメなことくらいわかる…」 土方は耳元でないと聞き取れない声で ゆっくりと言った 「何 言ってんだよ 勝手に決めるんじゃねー」 明るく言ってみせたのは嘘だ この怪我なら誰だって助からない でも 鬼の副長の この土方十四朗なら なんとかなるかも知れないだろ… 「最後に…お前の面が見えてよかったぜ…」 「おいっ 変なこと言うよ 土方っ …こんな時に笑ってんじゃねーよ!!」 声もなく土方は笑っていた 普段は絶対に見せることはない穏やかな笑みを 「お前…も 笑え…よ…」 土方は動かなくなった
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