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嗚呼、美しきかなダメ人間。
おっさんは腰を下ろし、上手そうにタバコを吸う。白くたなびく煙がよく映える。
「嬢ちゃんが戸惑う理由も、おじさんは十分わかるよ。すごくわかるよ。人間にはこんな真似できないからねぇ。だからと言うのはあれなんだけどな。あのな、今から言うのは他言無用だぞ」
他言無用と言われて、本当に誰にも言わない女子なんてこの世に皆無だけど。胸のうちでそっとつぶやく。
もったいないとため息をつきながらワンカップをつかみ、タバコをその中に放り込む。
「おじさんはねぇ。こう見えても恋のキューピッドなんだよ」
……キューピッド?
カバンから電子辞書を取り出し、調べてみる。
ローマ神話の恋愛の神。翼の生えた裸の少年で、ビーナスの子。
前を向く。
まるで妻子に逃げられた雰囲気。よれよれのボロいスーツを着たおっさんで、胸ポケットにタバコ。
一秒だけ悩み、一秒で決断を下した。
「嘘つけっ!」
酔っ払いの戯れ言と片付けた。
そもそもこの科学文明真っ盛りな世界に天使なんてそんなものいるわけがない。しかもよりにもよって、それがおっさんだった日にはもう宗教ナメすぎである。
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