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蝉が、命を削って鳴いている。 「ねぇ、何かしたいこと、ある?」 簡素なパイプイスに座る少女が尋ねた。ほんのりと暖かい印象を受ける、柔らかな少女だ。 少年は病室の天井を見上げ、しばし黙考する。 「そうだな……別にないな」 少女は額に手を当て、大きなため息をついた。 「野球とかサッカーとか、スポーツの一つや二つくらいしたいでしょ?」 少年は枕元に置いてあるバスケットから、リンゴを一つ少女に渡した。 「別に。観るだけで十分だよ」 少女は果物ナイを手に取り、慣れた手つきでリンゴを剥き始めた。 「はいはい。訊いたあたしがバカでした。ウサギにする?」 「普通ので」 会話はそれきりぱったりと止まった。少年は相変わらず天井を眺め、少女は手元に集中している。 ナイフがリンゴを走り、風に揺れる白いカーテンだけが場を繋げる。 「けど行きたい所はある。ありがと」 爪楊枝を差して、一つ少年に渡した。 「ふぅん、どこ?」 リンゴを咀嚼する音が不意に止む。 「──海」 ポツリと漏れた。 「海……海ねぇ。いいじゃない。久しぶりに行きたいなぁ」 「キミの水着姿も見てみたい」
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